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「親なきあと」と福祉型信託

「親なきあと」、障がいのある子はどう生きるか?

 わが子に障がいがある親は、常に「私が死んだらこの子はどう生きていくのだろう」という不安を抱えています。特にそれは親の高齢化が進んでいる今、大変切実な問題であると考えられます。「親なきあと」相談室の主宰者として全国を駆け回り講演を続ける渡部伸先生「お金を遺すより、本人のために正しく使われる仕組みを作っていこう」と提唱しています。障がいのある子が親の死後、孤立したまま親の相続財産を手にしたあと、悪意のある人によって騙し取られたということも耳にします。まさに仕組みづくりを考えることが必須だろうと思います。


成年後見人と福祉型信託

 当相談所では、成年後見人の引受けのほか、福祉型信託(※)の信託スキーム組成と信託関係者の代理人、監督人などを行っています。成年後見制度のセミナーは各地で開催されていますので、制度の概要をご存じの方も多くなりました。一方、民事信託、なかでも福祉型信託は高齢者や障がい者の財産管理と財産継承のための制度で、その有用性が認められていますが、まだ認知度が低く利用者も少数例にとどまっている状況です。以下に概要を紹介いたしますが、詳細な説明が必要な方はどうぞご連絡ください。

※福祉型信託は民事信託の一つです。平成19年の制度改正を受けて、近年はさまざまな問題解決の手法として活用されています。


◎信託制度の種類と違い

商事信託 投資信託など営利のための信託
民事信託 営利目的の信託ではなく、財産管理制度の一つ
福祉型信託 民事信託の中で、特に高齢者や障がい者の財産管理のために行われる信託

◎信託と成年後見各制度の特徴

内 容 信 託 法定後見 任意後見
身上監護 対象外 対象 対象
判断力に何ら問題がない時点での利用開始 不可 不可
財産管理の対象財産 信託行為の定めによる 全財産 任意後見契約の定めによる
財産管理の権限 信託行為の定めによる(多くは受託者に対象財産を譲渡して受託者が所有者となる) 本人が権利者のまま成年後見人が包括的代理権及び取消権を有する 任意後見契約の定めにより任意後見人が代理権を有する(取消権はない)
教育資金の贈与など 他人のための財産の利用 信託行為の定めによる 困難 任意後見契約の定めによる
死後の財産管理処分 信託行為の定めによる 不可 不可

 上の2つの表で、信託(福祉型信託含む)と後見制度の特徴と違いをまとめてみました。成年後見制度は判断能力が低下した人のために、財産管理および身上監護(※)を行う制度であり、高齢者にとってはとても大切な制度です。しかし被後見人の死亡によって後見が終了しますので、親なきあとに残されたお子さんが孤立するというリスクも考えられます。

 これに対し福祉型信託は財産承継の制度であるため、親の死後も親から子へと世代を繋いで財産を有効に継承できます。元気なうちに福祉型信託を利用し、死後、家族(障がい者)へ渡す財産を分別管理しておき、本人が認知症になったときは、手持ち財産の管理と身上監護を、後見人にお願いする。まさに渡部氏(前掲)の提唱する仕組みづくりには互いに補完しあえる最適な連携と思われます。

※身上監護士:専門的知識を活用し高齢者や障がい者、病気の人の日常生活を維持するために、法律行為や事実行為のサポートを行うことを言います。



信託契約の例

 成年後見制度についての詳細は別掲ページでご確認ください。ここではあまり耳馴染みのない「信託制度」について、もう少し解説いたします。上の図で各制度の特徴をまとめていますが、身上監護を除いて「信託行為の定めによる」となっています。委託される方からの依頼(財産の管理、運用、処分など)に対して、そのほとんどを受託することができます。そこで、信託行為をどう定めるかの信託契約の例を挙げてみます。

 信託契約は親(委託者)が健康な状態のとき作成します。親が認知症などですでに判断力が不十分になってからは信託契約(信託行為の定めなど)はできません。



【事例】

相談者(80歳)には障がいを持った子ども(50歳)がいる。相談者の配偶者はすでに他界している。相談者は高齢になってきており、自分の今後の健康状態も不安であるが、自分が死んだ後の子どもの生活について、非常に心配している。
 相談者は自分の所有している財産を将来子どもに管理させることは避け、第三者にその管理を任せ、自分と子どもが定期的に生活費の給付を受けられるようにしたいと考えている。



【親族関係図】

【信託契約の例(一部)】

  • 信託の当初の受益者(信託契約により利益を受ける人)は委託者(相談者)である。
  • 当初の受益者(相談者)が死亡したときは、第二受益者として子ども(障がい者)を指定する。
  • 受託者(信託を引受ける者:相談者の信頼できる人)は相談者の意向に従って、毎月決められた生活費を相談者と子どもに継続して支給する。
  • 相談者、子どもが共に死亡し、残余の財産がある場合は、家族が生前世話になった○○団体へ寄付する(あるいは甥の○○に贈与する)。
    ※文言は簡略に表記していま す。
    ※実際の信託契約書は数十条にわたって詳細に公正証書で作成されます。

 上の信託契約書では、親と子どもそれぞれが安心して今の暮らしを継続できるように、親と子ども順番に財産を移動させるようにしています。また、親、子ともに死亡した場合の残余財産についても、その処分方法を決めています。

 信託行為に関しては委託者(相談者)、受託者(相談者の信頼できる人)、各人から当相談所担当相談員が事情や希望を詳細にヒアリングしたうえで、内容を詳細にわたって決定し、信託スキームを組成します。また信託契約書は公正証書で作成し保管します。なお、依頼があれば信託監督人・受託者監督人受益者代理人として信託期間中の監督・指導も行います。


 年々老いていく相談者の体調の変化には、あらかじめ「任意後見人」の選任を信託契約で指定しておくこともできます。やがて一人暮らしになるだろう子どもは、親なきあと放置されることを防ぐために、「見守り契約」「財産管理委任契約」などの生前契約の設定も可能です。このような「将来への不安対策」を信託契約書に盛り込むことで「親なきあと」も継続して信託行為を続けることができます。


福祉型信託契約の流れ

 福祉型信託と成年後見制度が連携することで、「親なきあと」の悩み解決に大きな力を発揮します。以前からも、この連携を提唱する士業の先生も少なくありませんでしたし、ごく一部のようですが、障がい者のいるご家族が活用しているケースもあるようです。しかし依頼者が受託者(信託業者)に支払う手数料が高額で、誰でもが利用できる制度ではありませんでした。将来のご家族の暮らしに日々頭を抱えている親御さんは、まずはご相談ください。当相談所では高齢者や「親なきあと」問題解決のご相談に対し、経済的負担を抑え、誠心誠意応対しています。


※当相談所では、福祉型信託の活用を進めるにあたり、弁護士、公証人、司法書士、税理士(いずれも能代市内在住)と密に連携を図りながら、福祉型信託(民事信託)の締結支援を行っています。

(文責:ファイナンシャルプランナー藏本光喜)